一般ダイバーのガスマネジメント


 エア切れを起こしてしまったことは、有りますか?
 グループで潜る際、エア持ちについて心配だということは無いですか?

 私は、ズバリ、有ります。

 講習中、インストラクターがエア切れを起こしてしまうことはNGです。
 ですが、ほとんどの場合、起こりません。
 それは、ダイビングの管理をインストラクターが行なっているからです。

 では、心配な時とは??

 正直、とある地域にツアーで潜ったとき、
 そのポイントは20mオーバー。
 使うタンクは、8リットルのアルミシリンダーでした(汗)

 参加しているメンバーは、女性のお客様ばかり!
 絶対的に、不利ですw
 
 エア持ちのいいお客様に、コバンザメのようについて泳いだことも(笑)

 積丹でのDEEPダイビングでは、担当ということもありますので、
 自分がエア切れを起こすことはありませんが、
 男性のお客様がエア切れを起こしそうだったので、
 オクトパスを渡し、手を繋いでエキジットしたことはあります(照)

 呼吸ガスは、車に例えると「燃料」です。
 車は良いですよね。低燃費車だったり、街中でしたらスタンドもありますし。
 よほどのことがない限り、ガス欠は起こりづらいです。

 ですが、SCUBAは、そうはいきません。
 水中にガス充填所があるわけでもありませんし、
 低燃費のレギュレーターも存在しません。(欲しているのは体ですから)

 では、皆さん、潜るのに不可欠な呼吸ガス。
 ダイビングの際、どのくらい空気が持つのかなど、
 計画を立てて潜ることはありますか?

 今回は、私が感じているダイビングの謎、
 「ガスマネジメント」について書いてみたいと思います。
 
 個人的な考察も含まれますが、
 読んでくださって、興味を持っていただければ嬉しいです。

●潜水可能時間、なぜかダイブテーブルのみ計画される
●潜水計画に必要な要素
●ガスマネジメント ルール
●SAC、RMV
●RMV負荷要因

●EANxの勘違い
●保温対策とEANx





●潜水可能時間、なぜかダイブテーブルのみ計画される

 潜水計画を立てることは、一番はじめの認定資格でもレッスンします。
 メインとなっているものは、ダイブテーブルですね?

 減圧症を予防するために、ダイブテーブルを保守的に捉え、
 水深に合わせ、時間を制限します。

 例えば、NAUIのダイブテーブルであれば、
 ・6〜12m 130分
 ・〜15m   80分
 ・〜18m   55分

 この最大潜水時間を超えないように計画を立てます。

 超えてしまうと、浮上停止(減圧停止)が必要になります。
 なので保守的に時間を決定します。

 ここで、ちょっとした勘違いが発生します。
 時間を超えてはいけない理由が、減圧症になるから!
 と、言われ、浮上停止も「悪」のように刷り込まれる場合があるのでは?

 実際は、そうではありません。

 浮上停止自体は、むしろ良いことです。
 限界内で行う安全停止も「浮上停止」です。

 ちなみに、潜水作業では、様々な潜水方式がありますし、
 比較的長い潜水ですから、段階的な浮上停止を前提とした計画を行います。
 もちろん、使用するダイブテーブルも違います。

 では、何が問題なのか?

 NAUIやNOAAなどで使用されるダイブテーブルは、
 潜水している水深から、浮上停止を行わないで、
 直接水面へ浮上することが前提で作られています。

 NO-DECOMPRESSION TABLEと言っています。

 そこで、限界の時間という考えが出てきます。
 それでも、限界を超えた場合も考えなくてはなりませんから、
 NAUIでは5m、NOAAでは6.1mでの浮上停止枠が記載されています。

 作業などの浮上停止は、9m、6m、3mなど、綿密に計算され、
 減圧に時間をかけて、ダイバーを水面へ戻します。

 一般的なレジャーと潜水作業では、そもそも違うわけです。

 ですが、NO-DECOMPRESSION TABLEにもメリットがあります。
 使い方が簡単で、限界が明示されている分、計画を立てやすく、
 実際、呼吸ガスに限りがあるので、その消費時間と照らし合わせやすいのです。

 ここで、ひとつ皆さんに質問があります。

 15mに80分、潜水をし続けられるものですか?
 潜水時間の決め方は、どう決定していますか? 




 
●潜水計画に必要な要素

 ダイビングで実際のところ、ガイドやインストラクターが計画を立て、
 それに従って潜っていることが当たり前のようになってしまっています。
 果たして、ご自身のエア持ちと照らし合わせたことはあるでしょうか?

 潜水計画を立てる際に、最初に考えるべき要素があります。
 それは、
 ・水深→資格的、経験的にどうか?
 ・時間→限界時間を超えない計画
 ・空気消費→用意したタンクで、この水深で何分潜水可能か? です。

 私共も、反省しなければならないことがあります。
 一番初めの講習では、空気消費について正直説明不足でした。

 POSEIDONでは、Core Specialtyでのナビゲーションにて、
 平坦な水底において、消費量を計測する機会がありましたが、
 本来は、スクーバダイバーコース中にでも、計測と説明は必要です。

 エア切れを起こさないために、
 細かく残圧計をチェックすること。
 エア切れになった場合は、エアシェアなどで対応すること。

 そして、もうひとつ!

 エア切れを起こさないように、
 空気消費量の計画も立てること。
 なのです。

 計算すると、ダイブテーブルの限界時間よりも、
 空気の限界の方が短くなる方が多いことが、
 解ってくると思います。





●ガスマネジメント ルール

 ガスマネジメントルールの前に、ダイブテーブルの計画について、
 少しだけお話ししたいことがあります。

 それは、ダイブプランを立てない方が、多いということです。

 ダイブテーブルも、ダイブコンピューターも、
 潜水計画は箱型潜水で限界時間が決定されます。
 最大水深で潜水時間が推移するということです。

 実際には、ほとんどのダイバーは浅く浅く移動しながら潜っています。
 マルチレベルダイビングです。

 ダイブコンピューターのすごいところは、マルチレベルダイビングを、
 その都度計測しており、NDL(No Decompression Limit )が都度表示され、
 効率よく、水中に長くいられると云うところでした。

 しかしながら、矛盾点があります。
 それは、計画が成り立たないというところです。

 また、空気の管理も、細かく残圧計を見るということでしたので、
 夢中になってしまうと、ついつい確認不足でエア切れに。。。

 また、実際には個人々の代謝機能まで、コンピューターは管理しておらず、
 NDL内であっても、減圧症を発症してしまうケースもあります。

 そんな状態でも「Decoが消えればいいんでしょ?」
 と言う意見も多いのが現実です。。

 私の意見としては、やはり安全率を高く見積もるためにも、
 ダイブテーブルやダイブコンピューターで限界時間を確認し、
 それ以内の時間に制限するべきですし、

 空気消費量も、よく考えて、潜水計画を立てるべきでしょう。

 そこで、出てくるのは「ガスマネジメント ルール」です。

 折り返し型のダイビングであれば、
 ・1/2ルール:タンク圧力の半分+14〜20barで引き返す。
 ・1/3ルール:タンク圧力の1/3の圧力で引き返す。

 1/3ルールは、40m超える場合などで適用されます。
 一般的なダイバーであれば、1/2ルールが妥当です。

 例えば、開始圧が200barだった場合、半分の100bar+20bar
 120barで引き返すと言うルールです。

 潜水計画は、ダイブテーブルから見た観点と、
 ガスマネジメントの観点と、照らし合わせながら、
 妥当な計画かを決定することが、本来の潜水計画です。





●SAC、RMV

 計画を立てる上で、重要なのが、ご自身の空気消費量を知ることです。
 ログブックから計算することができます。

 本来は、同一水深で、計測したデータをもとに計算するのがいいですが、
 ここでは、平均水深から割り出して見たいと思います。

 SAC(またはSCR):Surface air consumption rate 水面空気消費率
 RMV(水面RMV):Respiratory minute volume 水面分時呼吸量

 ログブックのデータで、
 ・開始圧200bar→終了圧40barは、160barを消費したことになります。
 ・平均水深10m→絶対圧力にします。(水深+10)/10=2気圧
 ・潜水時間→40分
 ・使用したタンクの容量→10リットル
 だったとします。

 SAC=160/(2気圧×40分)
 SAC=2bar/分(水面での値)

 この場合、10リットルタンクであれば、
 1分間に2barの空気を消費することがわかります。

 同じ10リットルタンクで、今度は18mに潜るとします。
 1/2ルールを適用すると、、、
 
 18m=(18+10)/10=2.8気圧
 2.8気圧×SAC2bar/分=5.6bar/分

 10リットルタンクの初期圧が200barだとすると、、
 1/2ルールでは、120barが折り返し(80barを消費)

 80bar/5.6bar=約14分

 従って、折り返しは14分経過した時と言うことがわかります。

 しかし、毎回同じタンクとは限りません。
 そのために、RMVを計算しておいた方がいいです。

 SACが2barだったのは10リットルタンクだったので、
 2bar×10リットル=20L/分
 この例では、RMVが20L/分と言うことがわかります。

 先ほどの1/2ルールの計算を、12リットルタンクに変えて見ると、
 
 2.8気圧×RMV20L/分=56L/分
 折り返しまでに消費する80bar×12L=960L
 
 960L/56L=約17分

 タンクを大きくすると、もちろん折り返しまでの時間も延びました。


 
 現在、私は、社内で事業推進本部に在籍し、
 亜寒帯潜水技術研究所と言う、社内プロジェクトを担当しています。
 
 その業務の一つとして、社員の作業環境の改善、整備も含まれ、
 社員の潜水作業時間についても、様々な視点から検討しています。

 感覚的なものではなく、妥当な潜水時間なのかの「根拠」を、
 正しく割り出すことも必要だったため、ダイブテーブルと空気消費量を、
 比較しやすいようにまとめた表が下の表です。



 社員用は、社内のダイブテーブルで作成していますが、
 NAUIのダイブテーブルにも照らして見ました。
 箱型ではありますが、最大潜水時間まで空気消費量は
 ほとんど持たないことがわかります。





●RMV負荷要因


 表では、平均的なRMVと言われている、
 20L/分を採用して作成しています。

 しかしながら、様々な要因で、呼吸は上がってしまいます。

 ・遊泳中  =負荷1.0
 ・冷え   =負荷1.3
 ・軽度の作業=負荷1.5
 ・中度の作業=負荷2.0
 ・重度の作業=負荷3.0

 と言われています。
 
 北海道ではこれからの季節、寒さや冷えを考慮しなければなりません。
 体が冷えると、より代謝し産熱をしなければならず、
 通常よりも約30%呼吸量が増えてしまうと言われています。



 RMV20L/分に負荷1.3をかけると、
 寒冷地RMV26L/分となり、全体の約25%前後、
 潜水可能時間が短くなることがわかります。

 また、より多く呼吸を行い、さらに体が冷えると言うことは、
 減圧リスクも高まります。

 対策としては、
 ・EANx(エンリッチドエア ナイトロックス)を使用する
 ・保温対策を十分に行う
 ・ダイブテーブルも、潜水時間を一つ長めにして使う

 と、言うことが求められます。





●EANxの勘違い

 ここで、EANxのお話が出ましたので、
 EANxと、空気消費のことを書きます。

 POSEIDONでは、道内で唯一、EANxを正式に製造しています。
 製造方法は、分圧混合方式です。

 社内に有資格者も、もちろん在籍し、
 ヨッチも高圧ガス第1種販売主任者、
 私も、高圧ガス製造保安責任者 乙種機械を持っています。

 ちなみに、メンブレンで製造しようが、分圧混合で製造しようが、
 販売するためには、最低でも第一種販売主任者の免許を持った、
 販売主任者を選任し、各事業所に配置しなければなりません。

 沖縄県ではEANxは空気扱いだ、と噂がありますが、
 それは噂であり、EANxが空気でも酸素でもないガスだと言うことで、
 さらに、メンブレンでの製造に関しては、酸素としての法的適用がされない、
 と言うことです。

 製造所を除く、ダイビングショップでの販売に関しては、
 第一種販売主任者の選任が必要であると、書かれています。

 講習やファンダイビングで、ショップやサービスが、
 ダイバーへ渡すだけでも販売行為です。

 試験に合格し、届け出をするだけの話です。
 いろんな話がありますが、EANxの販売や提供を行うために、
 これくらいの参入障壁は必要だと考えています。



 さて、話を戻しますが、
 EANxの講習を行っていて、割と多い勘違いが、
 「EANxを使うと空気の持ちが良くなる」と言うことでした。

 勘違いの要因として、、、
 ・EANxだと最大潜水時間(限界時間)が延びる→長く潜れると勘違い
 ・酸素が多いので、呼吸回数が減る(そんなことはないです)

 上の表で緑色の列は、EAN32の場合です。
 潜水可能時間は特に変化がありません。

 限界時間が延びると言うことが拡大解釈されてしまったのでしょう。
 実際には、、
 ・呼吸中枢を刺激するのは基本的に二酸化炭素
 ・体を動かせば、代謝され、二酸化炭素が発生する
 ・酸素が多いと二酸化炭素の発生が減るわけでもない
 ・潜水中、呼吸は常に続けている

 EANxは、窒素を減らし、減圧リスクを抑えるところにメリットがあり、
 ダイブテーブル上、限界までの時間が延長されるだけの話です。

 潜水作業では、より、作業員の高気圧障害のリスクを減らすために、
 EANxを導入しているわけなのです。

 エア持ちを良くして長く潜らせるためでは、断じてありません!

 では、EANxは、減圧リスクがそもそも少ないダイバーにとって、
 メリットはないものなのでしょうか?

 そんなことはありません。

 浅くても、減圧リスクはもちろんありますし、体が冷えると尚更です。
 そして、製造に関しても、さらにクリーンな空気を使用し、
 シリンダーもより管理しているわけなので、

 より、「体に優しい呼吸ガス」と、言えるのです。





●保温対策とEANx

 ここまでのお話で、大切なことは、
 ・潜水する水深を考える
 ・ダイブテーブルやダイブコンピューターで限界時間を確認する
 ・空気消費量と使用するタンクの容量を確認する
 ・ガスマネジメントルールを適用する
 ・総合的に計画が妥当かを考え、決定する

 と、言うことでした。

 それと併せて、考えたいことは、水温ですよね?

 体が冷えると、ストレスが高いだけではなく、
 空気の消費も多くなってしまう。

 だからと言って、ダイビングは夏だけのものではないですし、
 南国だけのものでもありません。

 では、これからの季節、
 どのようにダイビングを楽しむのか?

 一つは、先にも出しましたように、EANxを使うことです。
 もう一つは、ドライスーツのインナーにこだわることです。

 体温をいかに維持するかが大切な要素です。
 スエットなど、綿素材のインナーなどは厳禁です。
 汗や結露を吸収し、どんどん体が冷えてしまいます。

 少々高級ではありますが、
 やはり専用のインナーを用意するべきです。

 重ね着も、身動きが取りづらくなることがストレスなので、
 やはり、肌着も、インナーもこだわるべきです。

 また、ソックスもこだわると良いです。
 ポセイドンでは、防水&透湿の寒冷地用ソックスを販売しています。
 これは、マイナスの水中30mでも快適でした。



 グローブは、わたくしたちは、3本指ミトンです。

 体幹のほか、末端も考慮してあげるとGOODですね。

 そのほかは、熱に変わりやすいものを食べたり、
 潜水前も後も、とにかく体を冷やさないことが大切です。

 

 今回の投稿も長くなってしまいましたが、
 最後まで、読んでくださってありがとうございます。
 
 空気消費量は、潜水計画を行う上で、不可欠です。
 ダイブテーブルでの限界時間も大切ですが、
 空気消費量の計画の方が、もっと身近で、もっとリアルです。

 また、エア持ちを改善するには、泳ぎ方や浮力の調整のほか、
 保温対策も重要だと言うことを、知っていただければ嬉しいです。
 
 
 さて、次回のブログ投稿は、
 夏に起こった怪奇現象。。。
 レギュレーターとマウスピースのお話です。
 

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