世界自然遺産 知床・羅臼ツアー 2014 冬 水中の巻

羅臼の潜水ポイント、知床ダイビング企画のホームである「ローソク岩」

 亜寒帯(subarctic zone)である北海道にて活動を行なっている、
サブアークティックダイバーとして、
今も昔も命題となる事は「ダイビングは暖かい場所で行なうもの」と言う”先入観”を払拭することだと思っています。


奥の岩の下は、水深20~25m。岸から水深40mまではわずかな距離だ。

 ポセイドンでは、冬もダイビングを楽しめるだけではなく、スキルアップを行なう為の目標や指標となる「ウィンターダイビングツアー」を企画し、2014年度は、然別湖コタン アイスダイビング、そして今回の知床 羅臼ツアーを実施いたしました。


パックアイスの雲と海藻の草原。羅臼の美しい水中世界。

 アイスダイビングの定義は、固定状態にある氷の下に進入する潜水であり、氷の厚さも人を支えるのに適した15cm以上の場所で行なわれます。

 低水温による体温低下とレギュレーターの凍結(装備と体調の問題)、水底のシルトを巻き上げてしまう事で起る視界不良(中性浮力とフィンワークの問題)、出入り口は1つのみ(メンタルとフィジカルの問題や、残圧管理の問題)、これらを理解し、受け入れ、トレーニングを行うことで初めて
 ”厳しいながらも生命の輪廻である大自然へ、人間の英知を持って挑戦することで様々な何か?を垣間みることができる” ダイビングの本質的な楽しみを得る事が出来ます。

 例え、一面結氷していなくても、氷の下へ進入するという事は、この段階で頭上に障害物がある状態なので、初心者や体験ダイバーを安易に連れて行く事は出来ません。

 これらの事を学ぶことができるテキストがNAUI Japanでは現在存在していないこと(1993年初版のNAUIダイビング全書で最後でした)、また、経験した事があるインストラクターやダイブマスターも希少であることから、次の世代へ受け継ぐ為にも、我々が行なわなければならないと思い、然別湖コタンアイスダイビングツアーを実施しています。

 実際、氷の下へ潜水する作業などでも、事故は起っています。
我々のミッションの一つは、レクリエーショナルダイビング、コマーシャルダイビングを問わず、安全啓蒙、最新の情報と手法さらに器材を普及する事です。

 これらの事を、正しくお客様に理解して戴き、スキルアップに繋げていただく、また、参加の為にトレーニング目標にしていただければ嬉しく思います。 


見事なパックアイス。埋まってくるとアイスジャムになります。

 ですが、それは、結氷した湖での話しであり、今回の「知床・羅臼ツアー」はまた別格の「sub arctic diving」なのです。

 羅臼の海は、流氷が流れ、海水が凍ると言われる水温マイナス1.8℃前後であり、水面には、流れてきた氷と、海水が凍った氷が存在します。

 動きのある、また、淡水のようにフラットな氷では無く”荒々しい”氷は、ダイバーの潜水行為を阻むかの様に、たえずその形を変え、岸に押し迫ってきます。

 安定的な湖でのアイスダイビングとは違い、”動きがある”と言うことは、低水温も相まって、ダイビングの難しさが倍加されます。


冬に見られる深海魚”アバチャン”は水深30m以深にいる。

 今回のツアーに参加された皆様は、150diveから600diveと、潜水経験も豊富なメンバーではあったものの、やはり低水温下での”違い”を実感された様です。

 先ずは器材の取り扱いです。ドライスーツのインナー、グローブ、ソックス、フード、レギュレーター(オクトパスも)の選択、また現地での取り扱いを誤ると、いつものスキルを発揮出来ないどころか、危険に晒されてしまいます。
それだけ、ダイビングは道具に依存していると言うことなのです。安易な器材選びや器材に対する知的学びを怠る事は、ダイビングでは命取りになると言うことです。


水深25m付近にて歩いていたケガニ。

 特に、保温と言うことを簡単に考えてはいけないと、実感した次第です。
私は、WHITES社のいわゆるシェルドライで、中はサーマルフュージョンと言う寒冷地用のインナー、MK3ソックス、グローブは3フィンガーです。
 
 実際、3.5mm〜5mmのネオプレーン製ドライと比べても、そんなに遜色無く、マイナス1.5℃でも50分の潜水を行なう事が出来ましたが、冷えは確実にやって来ると言うことは実感出来ました。ブリーフィングの説明を受けた通り、10分ごとに、体に冷えによる変化が現れました。私の場合は”集中力”が散漫になるという形で現れたのです。

 然別湖でのアイスダイビングのように、純粋に氷の中へ進入する事が目的と言う事では無く、羅臼の場合は「豊かな生命」がメインテーマとなりますので、生物を観察したりすることが楽しい。それが、注意力が散漫になって来ると、良く観察出来なかったり、軽快に動き回る事が出来なかったりと影響がでます。


貝殻の中で卵を守るナメダンゴ

 また、水深も考慮しなければなりません。
羅臼の海は、少し泳ぐと傾斜がかかり、20m、30m、40mと行ってしまいます。もちろん”減圧症”について、よく考えなければならない環境下なのです。

 浅い水深も、海藻やクリオネなど、見所は沢山ありますが、25mラインが様々な生物が見られ、楽しいと、知床ダイビング企画の関さん談。

 しかしながら、深い場所も、非常に魅力的な環境なのです。我を忘れて夢中になりすぎると、限界時間を超えてしまったり、残圧が無くなってしまったり、また、寒冷地特有の「レギュレーターの凍結」も起こりうる世界です。充分な減圧が出来ずに浮上と言うこともあり得る事は、理解しておかなければなりません。


ヒダベリイソギンチャクの色彩は、とても鮮やか。

 それだけ難しい環境なのに、なぜ潜るのか?

 答えは簡単です。

 ”厳しいながらも生命の輪廻である大自然へ、人間の英知を持って挑戦することで様々な何か?を垣間みることができる” ダイビングの本質的な楽しみが得られるからです。

 その”何か?”は、潜った本人にしか、解りません。

 教えてもらえない、教えられないから、自分で潜るのではないでしょうか?


クリオネの撮影は非常に難しいのです。これは単に逃げられた1枚です。

 日本の北東の極地「知床・羅臼」
 ここの海には、何度も通っているという、多くのダイバーが集まります。


トガリテマリクラゲの透明感は美しい。

 ダイバーを惹き付ける、”何か?”が、ここにはあるのです。


繁茂する海藻とダイバー。

 この日本の極地「知床・羅臼」で楽しむ為には、必然的に装備も重たくなりますので、フィジカル的な強さも要求されます。

 それでも、小さな女性から大きな男性まで、笑顔でダイビングを楽しんでいるのです。


海藻の森は、積丹の森と生育環境も生活史も違います。

 札幌ー羅臼間は、車で約8時間。東京ー京都と同等の距離です。
 1日、ダイビングを楽しむ為には、往復の移動も入れて最低3日は必要です。
 宿泊も二泊三日となりますし、車両燃料もかかります。
 運転も単独でスタッフに行なわせる訳には行きませんので、2名必要です。


水面近くでは、海水が凍っています。

 私自身、羅臼へ訪れたのは、18年ぶりでした。考えると、当時知床ダイビング企画の関さんは、今の私と同じ年齢です。またお逢いすることができて光栄でした。

 いままでツアーとして成立しなかった言い訳は、格安の旅行が出始めて、同時期の沖縄等、南方へのツアーのほうが価格的に安く、その流れに呑まれてしまっていたのです。


今回の羅臼ツアーは大きな低気圧にぶつかってしまいました。

 しかしながら、華やかな南国のリゾートも必要ですが、自然の摂理と言うものは、昼もあれば夜も有り、光があれば影もある。温暖な地域もあれば寒冷地もあり、そのバランスで成り立っている訳です。


午前1本でも潜水できたことは幸いです。

 最近は、「ダイビングは暖かい場所で行なうもの」と言う”先入観”を払拭までは至っていませんが、”厳しいながらも生命の輪廻である大自然へ、人間の英知を持って挑戦することで様々な何か?を垣間みることができる” ダイビングの本質的な楽しみと言う観点から、北の極地も、一般的なダイバーから見直されてきたような気がしています。


花のように開いているヒダベリイソギンチャク。

 北海道内での移動でも、それなりの料金が必要となりますが、その時間と金額をかけてでも、訪れたい場所、それは「世界自然遺産 知床・羅臼」だと、自信を持って言うことができます。


タラバガニの子供。ヤドカリと同じ異尾類で足が少ない。

 最近までのダイビング傾向は、ライセンス(免許)と言う名で、簡単に資格を取得しようと言う流れが横行していました。しかしながら、ダイビングはトレーニング証明であるサーティフィケーション(Cカード)を発行するのが本当です。

 私は、インストラクターを取得して19年になりますが、ライセンスと言うレジャー潜水免許を発行した事など一度もありません。


ナメダンゴに逃げられてしまった。

 ダイビングはトレーニングが必要です。また、トレーニングとは万が一の場合でも、落ち着いて対応出来るように、管理された中でその怖さを実感し、逃げる事無く、克服する成功体験のつなぎあわせであり、単なる水中経験であってはならないと考えています。


流れてきた流氷の上で。

 ダイビングの本質的な楽しみを求める為には、大自然の事、自分自身の事を理解し、リスクを受け入れ、その準備として、トレーニングを行なう事、更に、適切な道具を入手し準備する事が、大前提になります。


アイスジャムの中をエキジット。

 総合的に見ると、ここ「知床・羅臼」は、ダイバーにとって、四季がハッキリしており自然の輪廻を垣間みることができ、また、目標や指標にもなる、非常に良い環境と言えるのです。

 ポセイドンでは、積丹のみならず、然別湖のような高所かつアイスダイビングが出来る場所、更に総合的にダイバーの目標ともなる羅臼の海を、今後も継続して、皆様にご案内出来るように努めて参りたいと思います。


知床ダイビング企画

 皆様、是非、北海道の四季、特に冬の「サブアークティック ダイビング」を目標に、沢山、ダイビングを行なって下さい。

 ※次回、道中グルメツアーの巻につづく☆

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