The principle of duality 〜陰陽の理〜
先日、潜水界の先輩であり、
大変お世話になっていたかたの訃報を知りました。
1994年か1995年に、フィーノという半閉鎖回路の潜水器を、
ポセイドンでも導入し、当時の常務だった土田浩人(NAUI 6764)が、
フィーノインストラクター資格を取得したころのお話です。
その先輩は、フィーノのメインテナンスについて、
ポセイドンに来社されたことがありました。
そのころ、私はインストラクタートレーニングコース前で、
「クラスルームのプレゼンは、もっと凄く楽しくないとね」と、
とても明るくおっしゃっていました。
そのインパクトが凄く、未だに私のプレゼンの基礎となっています。
2011年頃、JAUSのシンポジウムや潜水士の問題集について、
須賀次郎先生と打ち合わせをする為、上京した際に、
その先輩と再会し、業務上のことで、お世話になるようになりました。
非常に残念ではありますが、ご冥福をお祈りするとともに、
先輩の偉業を讃えつつ、自分の行うべきことについて、
これからも精進して行こうと思います。
今回のブログテーマは「陰陽の理」
朝が来れば、夜も来る。
光があれば、影もあり、
夏があれば、冬もある。
楽しいことがあれば、辛いことだってある。
この世の中は、陰陽の理。二元性で成り立っています。
おおよそ、陽ばかりを良しと考えがちですが、
陰があるからこそ、陽が成り立つことを忘れてはいけません。
ダイビングは、レジャーであっても、
楽しい「陽」だけを追い求めては、進展がありません。
また、「陽」をたくさん得ようとすると、
「陰」もまた、たくさんやってきます。
「陽」を考えるとき、
「陰」も考えることは、
物事の大切なファクターなのです。
「どうしたら潜水事故を無くすことができますか?」
と、よくある質問に対し、概ね、私たちインストラクターは、
「潜らないことです。」と、答えるのです。
一見、ネガティブに見えるこの究極の言葉の裏には、
リスクは消えることはなく、また消せるものではない。
リスクは受け入れるもので、ダイバーにとって事故ゼロは永遠の目標という、
実はポジティブへ進む側面も持ち合わせる言葉なのです。
フラッターキックのトレーニング。 |
前年と体力の違いを理解いただきます。 |
5月20日(土)
この日は、リフレッシュプログラムとして、
プールでの講習を行いました。
いつもセルフで潜っておられるみなさまへ、
シーズン前のリフレッシュではありますが、
テーマは「中高年の為のサバイバルリフレッシュプログラム」
今年で4回目となりますが、
とても、安全に対する意識が高い、
素晴らしいダイバーのみなさまです。
始まりは、ダイバーの漂流事故でした。
セルフで潜っているみなさまなので、
「自分たちも、いつ何時、トラブルが起こるかわからない。」
「年齢的に、自分の限界を理解しておきたい。」
と、言うものでした。
ダイバーのアクシデントを、
単にアクシデントと捉えることではなく、
教訓として、自分たちにもフィードバックさせて頂く。
決して、対岸の火事ではない。
その強い意思の現れが、このリフレッシュの開催動機であり、
弊社といたしましては、もちろん応援する以外に選択肢はありません。
そこで、定期的に開催させて頂く運びとなった次第です。
先ずは潜降いたします。 |
愛弟子の夏海くん(NAUI #57205) |
夏海によるデモ。トリムからのマスククリア。 |
トリムからのレギュレーターリカバリークリア。 |
着底ではなく、ほとんどが泳いでいるときに発生します。 |
基本の器材脱着。 |
ダイビングのトレーニングを行っていて、
また、ファンダイビングを担当していて、
常に思うことがあります。
それは、以前と同じ内容、同じ場所は、
飽きられ、敬遠されがちになってしまうことです。
もちろん、新しい知識や技術の習得、刺激や発見などは必要です。
ですが、それと併せて、基礎的内容の反復練習、
今までとの違いの認識、これがとっても重要なのです。
ファンダイビングは、同じポイントでも新しい発見があるものです。
また、人間の住んでいない自然の中へ入り込むわけですから、
いつも、ダイバーの思い通りに生物がいるわけでもありません。
狙い通りもあれば、そうではない時もまた、陰陽の理です。
だから、四季折々の水中環境は、同じ場所でも楽しめるのです。
ダイビングスキルもそうです。
人間の体調や体力は一定ではありません。
もちろん、ストイックに一定を維持することは大切です。
しかし、昨年できたことが、今年は難があることも少なからずあるものです。
したがって、リスクは、年々増えるものと言えるのではないでしょうか?
テーマに「中高年」と入れさせていただいた理由も、そこなのです。
リフレッシュの真髄は、
同じことを反復して行い、
自分自身の違い、変化を認識することと、
そのスキルを、今の自分自身に最適化させることなのです。
そう思い、いつもの基本的なスキルを、
今回も、飽きず懲りずで実施いたしました。
オクトパスブリージング。 |
バディとの器材の違いを理解しましょう。 |
今年の「中高年のためのサバイバルリフレッシュ」は、
以下の内容で、トレーニングいたしました。
- セッティングとバディチェック(リスト使用)
- フラッター、バック、フロッグキックのサーキット 200m
- ホバリング(トリム)でのマスククリア、レギュリカバリークリア
- 水中での器材脱着、ウェイト脱着
- オクトパスブリージングアセント
- 水面での器材脱着
- 溺者の引き上げ
- 水面での曳行(器材着用のままネッククレードル)90m
時間と体力には限りがありますので、
ここまでといたしましたが、
このほかにも様々に、スキルは尽きないものです。
例えば、片フィンでの遊泳300mや、
マスク無しでのアセントなど、
実際考えられるトラブルを想定すると、
まだまだありますね。
練習風景。 |
引き上げ練習です。 |
ネッククレードルによる曳行と人工呼吸。 |
迅速に岸またはボートへ引き上げることが大切。 |
慣れないでしょうけれど、大切なのです。 |
今回は、泳ぐ距離を、やや短めにしておりますが、
実際、セルフの皆様が、いつも潜られている茶津で、
エントリーから、メガネ岩を周り、大きな岩を迂回し、
ドント穴付近まで移動し、そこから水路を通過し、
エントリー場所まで戻るとなると、最低500mは泳ぎます。
メガネ岩でトラブルが発生し、エントリーポイントまで戻ると、
水面の最短距離を通っても、220m以上はあります。
この距離を、バディを曳行し、
岸まで戻らなければならないのです。
通過する船に出逢えればいいのですが、
出逢えないことも想定できます。
私たちも、みなさんも、潜水計画は
計画(Plan)はネガティブに。
実施(Do)はポジティブに。
評価(Check)はネガティブに。
改善(Act)はポジティブに。
と、することが、大切です。
まさしく「陰陽の理」ですね。
事故と言う存在は無くなりません。
ただし、リスクを理解し、受け入れ、
最悪の事態も想定した準備を行い(P)
その計画に沿って楽しく潜る(D)
失敗したことは深く捉え(C)
楽しみながら改善してゆく(A)
そうすることで、事故を先延ばしすることができ、
その日、その日を、結果的に事故ゼロとすることもできます。
まとめますと、
陰陽の理。
ダイビングを楽しむためには、
変化し、増え続けるリスクを
理解し受け入れることが必要なのです。
機会があれば、今回ご参加いただきました皆さんと、
海での安全対策講習を行ってみたいです。
陰陽のPDCAで。
ポセイドン北海道ダイビングセンター
亜寒帯潜水技術研究所
工藤 和由(NAUI CD #17113)
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